決算変更届を経営に生かす方法
見積から工事原価、決算、そして次の一年へ
建設業許可を受けている会社は、毎事業年度の終了後、決算変更届を提出しなければなりません。
税務申告のために決算をまとめ、その後、建設業の決算変更届を作成する。毎年、このような流れで手続きを進めている会社も多いのではないでしょうか。
もちろん、決算変更届を適切に提出することは大切です。
ただ、私は、この手続きを単なる行政への報告で終わらせてしまうのは、少しもったいないと考えています。
一年間の工事を振り返れば、どの工事で利益を確保できたのか、見積りと実際の原価にどのような違いがあったのか、どのような取引が会社の経営を支えていたのか、といったことが見えてくるはずです。
決算変更届は、そうした一年間の仕事の積み重ねを整理する機会でもあります。
そのためには、決算の時期だけでなく、工事を受注する前から考えておきたいことがあります。
1.出発点は、工事の見積り
工事の利益は、完成してから初めて考えるものではありません。
受注する前の見積りの段階で、工事にどれだけの費用がかかり、どの程度の利益を確保できそうなのかを考えることが重要です。
例えば、材料費、労務費、外注費、現場経費などを積み上げ、工事に必要な原価を見積もります。そのうえで、請負金額と予定原価との差から、見込まれる利益を把握します。
もちろん、見積りどおりに工事が進むとは限りません。資材価格が変動することもあれば、追加工事が発生することもあります。
それでも、最初にどのような原価を想定していたのかが明らかになっていれば、工事の進行に伴う変化を把握しやすくなります。
見積書は、発注者に金額を提示するためだけの書類ではありません。工事の採算を考えるための出発点でもあるのです。
2.工事中は、予定と実際の原価を把握する
工事が始まったら、実際に発生した費用を記録していきます。
材料費はいくらかかったのか。外注費は当初の予定と比べてどうだったのか。追加作業や工期の延長によって、どのような費用が発生したのか。
こうした情報を工事ごとに整理しておけば、完成を待たずに収支の変化に気づける可能性が高まります。
例えば、当初は十分な利益を見込んでいた工事でも、追加作業が重なれば利益が減少することがあります。逆に、施工方法の工夫や原価管理によって、予定よりも良い結果になることもあるでしょう。
大切なのは、工事が終わってから数字をまとめるだけでなく、工事の途中でも状況を把握できるようにしておくことです。
また、追加工事や契約内容の変更があった場合には、その内容や金額、工期への影響などを適切に記録しておくことが重要です。
こうした記録は、契約上の確認に役立つだけでなく、工事の原価や利益を正しく把握するためにも必要になります。
3.工事が完成したら、実際の利益を確認する
工事が完成したら、最終的な工事収益と原価を整理し、実際にどれだけの利益を確保できたのかを確認します。
ここで、当初の見積りと比較してみます。
予定していた原価と実際の原価には、どのような違いがあったでしょうか。予定より利益が増えた工事と、利益が減少した工事には、何か共通点があるでしょうか。
例えば、ある種類の工事では想定以上に外注費がかかっていた。特定の工事では、追加作業への対応に時間を要していた。あるいは、継続的な取引先との工事では、作業手順が確立していて採算が安定していた。
このような傾向がわかれば、次回の見積りや受注方針を考える際の参考になります。
また、工事別だけでなく、取引先別に収支を振り返ることも考えられます。
ただし、利益率だけで取引先や工事の良し悪しを決められるわけではありません。利益額、工事に必要な人員や時間、代金の回収条件、継続的な取引の価値なども含めて判断する必要があります。
それでも、自社の工事がどのような収益構造になっているのかを知ることは、経営判断の基礎になります。
4.一年間の工事の積み重ねが、決算になる
こうして一年間の工事が積み重なり、会社の決算がまとまります。
決算書には、会社全体の売上や費用、利益、資産、負債などが表れます。しかし、決算書の数字だけを見ても、個々の工事でどのようなことが起きていたのかまでは、十分にわからない場合があります。
だからこそ、日頃から工事ごとの収支を把握しておくことが大切です。
工事別の記録と会社全体の決算を結びつけることで、売上や利益の背景にある仕事の実態を理解しやすくなります。
また、利益が出ているのに資金繰りが苦しい場合には、工事代金の回収時期や支払いのタイミングなども確認する必要があります。
利益と資金繰りは、密接に関係していますが、同じものではありません。
決算をまとめることは、一年間の数字を確定させるだけでなく、会社の経営状態を振り返る機会でもあります。
5.決算変更届で、建設業の実績と財務を整理する
建設業許可を受けている会社は、毎事業年度の終了後、原則として4か月以内に決算変更届を提出します。
この届出では、工事経歴書、工事施工金額、建設業法に定められた様式による財務諸表などを作成します。
税務申告で使用した決算書を、そのまま提出すればよいというわけではありません。建設業の財務諸表では、建設業特有の勘定科目や区分に従って整理する必要があります。
例えば、完成工事高や完成工事原価、完成工事未収入金、未成工事支出金など、建設業の仕事の実態を表す項目があります。
こうした数字を適切に整理するためには、決算書だけでなく、工事の実績や原価の記録を確認することも大切です。
日々の記録が整理されていれば、決算変更届の作成に必要な情報を確認しやすくなります。反対に、工事の記録が十分でなければ、決算の時期になってから、過去の取引や費用の内容を確認し直さなければならないこともあります。
決算変更届は、行政に一年間の実績と財務状況を報告するための手続きです。そして、その内容は、会社が一年間どのように事業を営んできたのかを振り返るための材料にもなります。
6.決算変更届を、次の一年の経営判断につなげる
決算変更届を提出したら、それで一年間の仕事が終わるわけではありません。
むしろ、ここから次の一年に向けた判断が始まります。
どの工事で利益を確保できたのか。どのような費用が想定以上にかかったのか。売上や利益は前年と比べてどう変化したのか。資金繰りに問題はないか。
こうしたことを振り返ることで、次年度の見積りや受注方針、原価管理、資金計画などを考えることができます。
公共工事の受注を目指す会社であれば、経営事項審査への対応も重要です。工事実績や財務状況、技術者など、評価に関係する事項を日頃から把握しておくことが役立ちます。
また、長期的には、人材の育成や設備投資、経営体制の整備、事業承継などを考えるうえでも、毎年の実績を振り返ることには意味があります。
一年間の数字を確認し、次の一年に生かす。その繰り返しが、会社の経営を支えていきます。
決算変更届を単なる書類作成で終わらせないために
見積りから始まり、工事ごとの原価を管理し、完成時に利益を確認する。その積み重ねが決算となり、決算変更届につながっていく。
そして、決算変更届で整理した実績や財務の情報を、次の一年の経営判断に生かしていく。
このような流れをつくることができれば、決算変更届は、毎年繰り返すだけの事務手続きではなくなります。
もちろん、日々の工事管理と決算変更届の作成は、それぞれ異なる役割を持っています。また、決算変更届には法令上の提出義務があり、必要な書類を適切に作成しなければなりません。
そのうえで、手続きと会社の運営を切り離さずに考えることが大切だと思います。
私は、建設業の行政手続きを、建設会社の仕事や経営の流れの中で捉えたいと考えています。
必要な手続きを適切に行うこと。そして、その過程で会社の実績や数字を理解し、気づいたことを次の判断につなげていくこと。
決算変更届を、一年間の経営を振り返り、次の一年へ進むための機会として活用してみてはいかがでしょうか。