公共工事参入の全体像
手続を始める前に、まず考えておきたいこと
「公共工事に参入したい」
そう考えたとき、まず経営事項審査(経審)の手続を始める――というのが、必ずしも最初の一歩とは限りません。
公共工事への参入は、単に入札参加資格を取得して仕事を増やすという話ではありません。
・どのような工事を、どの地域で、どの程度受注したいのか。
・そのために、現在の自社には何があり、何が不足しているのか。
・そして、公共工事を取り入れることで、会社をどのような方向へ成長させたいのか。
まず、こうしたことを考える必要があります。
私は、公共工事への参入を考える際には、手続きよりも先に「全体像」を把握しておくことが大切だと考えています。
1.なぜ公共工事に参入するのか
最初に考えるのは、
「なぜ公共工事に参入するのか」
ということです。
例えば、
・民間工事の閑散期を補いたい
・売上を安定させたい
・地域社会との関係を深めたい
・公共工事の実績によって会社の信用力を高めたい
・後継者の代で事業を拡大したい
・技術者を育成し、会社全体の技術力を高めたい
など、会社によって目的は異なります。
「公共工事は安定していそうだから」「入札に参加すれば仕事が取れるだろう」といった漠然とした期待だけで参入すると、思うように受注できなかったときに、そもそも何のために入札をしているのか分からなくなることがあります。
公共工事に参入すること自体を目的にしてはいけません。
まず、自社にとって公共工事がどのような意味を持つのかを明確にすることが出発点です。
2.どれくらいの売上・利益を目指すのか
次に、
「公共工事を会社の中でどの程度の規模にしたいのか」
を考えます。
例えば、公共工事を全体売上の10%程度にするのか、30%程度まで高めるのか、あるいは将来的に公共工事を会社の大きな柱にするのか。
目標によって必要となる受注件数、工事規模、人員、技術者体制は変わります。
また、売上だけでなく、
「その売上からどの程度の利益を確保したいのか」
という視点も必要です。
公共工事を受注することによって売上は増えたものの、人件費や管理コスト、事務負担などが増え、思ったほど利益が残らないということも考えられます。
だからこそ、売上だけではなく、利益まで含めて目標を設定することが重要です。
3.どの業種で参入するのか
次に、
「何の工事で公共工事に参入するのか」
を考えます。
土木、建築、舗装、電気、管、造園など、公共工事には様々な業種があります。
また、機械器具設置、電気通信など、特定の技術や設備に強みを持つ会社が活かせる専門性の高い分野もあります。
ここで大切なのは、単に「公共工事で発注が多そうな業種」を選ぶことではありません。
これまで自社が培ってきた技術、施工実績、資格者、設備などを踏まえ、
自社の強みを、公共工事という市場でどのように活かせるのか。
という視点から考えることです。
4.どの地域で参入するのか
業種とともに、
「どこで公共工事を受注するのか」
も考える必要があります。
自治体によって、発注される工事の種類や規模、件数には違いがあります。
そのため、
・どの自治体が発注しているのか
・どの業種の工事が多いのか
・どの程度の規模の工事が発注されているのか
・どの時期に発注が集中するのか
・過去にどのような会社が受注しているのか
・今後どのような工事が予定されているのか
といった情報を調べます。
自社の得意分野と、地域の発注市場が噛み合っているのか。
ここを確認することが重要です。
5.どのランクを狙うのか
市場を調べたら、次に、
「どの程度の規模の工事を狙うのか」
を考えます。
そのためには、希望する工事がどのランクで発注されているのかを確認する必要があります。
そして、
「現在の自社は、その市場のどこに位置しているのか」
を確認します。
ここで初めて、経審の評点やランクが具体的な意味を持ってきます。
高いランクを目指せばよいわけではありません。
自社が受注したい工事に合ったランクを目標にする。
これが大切です。
そして、ここまでが目標を決める段階です。
ここまでを一度整理すると、
なぜ参入するのか
↓
どれくらいの売上・利益を目指すのか
↓
どの業種なのか
↓
どの地域なのか
↓
どのランクなのか
という順番になります。
ここが公共工事参入の土台です。
6.では、現在の自社はどこにいるのか?
目標が決まったら、次に現在の自社を確認します。
例えば、
・売上・利益
・財務内容
・自己資本
・完成工事高
・建設業許可業種
・技術者・有資格者
・営業所技術者の体制
・主任技術者・監理技術者として配置できる人員
・現在の経審の評点
・公共工事の元請・下請実績
などです。この段階では、分析機関などのサイトを使ってシミュレーションを利用する点を強くおすすめします。
そして特に、公共工事の経験があるかどうかも重要な確認事項になります。
長年、公共工事の下請として仕事をしてきた会社であれば、公共工事特有の現場管理、書類、品質、安全などについて、すでに相当の経験を蓄積している可能性があります。
一方、公共工事の経験がほとんどない会社であれば、いきなり元請として参入するのではなく、まず公共工事の仕事の進め方を知るところから始めるという選択肢も考えられます。
同じ「公共工事への新規参入」でも、会社によって現在地は違います。
7.目標と現在地の差を確認
ここで、
「目標とする業種・地域・ランク」と「現在の自社」との間に、どの程度の差があるのか。
を確認します。
財務が不足しているのか。
技術者が不足しているのか。
資格者が不足しているのか。
完成工事高が不足しているのか。
あるいは、そもそも狙っている地域に自社が受注できそうな市場が十分に存在するのか。
こうした点を一つずつ確認していきます。
8.不足しているものをどう改善するか?
差が分かれば、次にやるべきことが見えてきます。
財務であれば、
・利益体質
・自己資本
・借入
・キャッシュフロー
などを見直す。
技術者であれば、
・採用
・資格取得
・若手育成
・営業所技術者の複数体制
などを考える。
また、公共工事を継続的に受注するためには、技術者だけでなく、安全管理、品質管理、書類作成などを含めた組織体制も必要になります。
ここで重要なのは、
「経審の点数を上げるために会社を変える」のではない
ということです。
目標とする公共工事を継続的に受注できる会社になる。
そのために財務、人材、技術、組織を改善する。
その結果として経審の評価にもつながっていく。
私は、この順番が大切だと考えています。
9.そして、最後に手続きへ
ここまで検討して、
「この地域、この業種で公共工事に参入する意味がある」
「この程度の売上・利益を目指したい」
「このランクを目指したい」
「そのための体制を整えることができる」
と判断できて、初めて経営事項審査や入札参加資格などの具体的な手続に進みます。
経審や入札参加資格の取得は、公共工事参入の出発点ではありません。
会社としてどこへ向かうのかを決め、その目標を実現するための手段として制度を利用する。
この順番で考えることが、公共工事への参入を一時的な取り組みで終わらせず、会社の将来につなげていくために重要なのではないでしょうか。