承継後に必要とされる行政手続き
建設業許可の変更届
建設業許可を承継(取得)した後も、会社は変化していきます。
役員が交代する。
営業所を移転する。
営業所技術者等が退職する。
株主が変わる。
会社の所在地や商号が変わる。
こうした変更が生じた場合、建設業許可についても所定の変更届等を行う必要があります。
しかし、変更届を単に「会社の情報が変わったことを行政に知らせる手続き」と考えてしまうと、重要な点を見落とすことがあります。
なぜなら、変更の中には、建設業許可の要件そのものに密接に関係するものがあるからです。
変更する前に建設業許可への影響を考えることが必要とされます。
そのため、建設業許可を持つ会社では、
「変更があったから届出をする」
だけではなく、
「この変更によって、建設業許可はどうなるのか?」
という視点を持つことが重要です。
1.変更届には「重要度」がある
変更届と一括りにしても、会社に与える影響は同じではありません。
例えば、商号の変更と営業所技術者等の交代では、会社にとっての意味が大きく異なります。
商号の変更は、許可情報を現在の会社の状態に合わせるために必要な手続きです。
一方、営業所技術者等の交代では、
変更後も必要な技術者要件を満たしているのか
という問題が生じます。
常勤役員等についても同じです。
役員を一人退任させるだけのつもりでも、その人物が建設業許可上の経営業務の管理体制を担っている場合には、変更後の体制について確認が必要になります。
したがって、変更届を考える際には、
「届出が必要か」だけではなく、「許可要件に影響する変更なのか」
を確認することが大切です。
2.特に注意したいのが「役員変更」
会社では、事業承継や組織変更に伴って役員を入れ替えることがあります。
しかし、建設業許可を持つ会社の場合、
「会社法上、役員を変更できる」ことと、「建設業許可を維持できる」ことは別問題です。
例えば、これまで経営業務の管理体制を担っていた常勤役員を退任させる場合。
後任者を含めた新しい体制で、建設業許可に必要な要件を満たすことができるのかを、事前に確認する必要があります。
また、会社法上の役員であっても、建設業許可上の「役員」の扱いは一律ではありません。
特に、監査役については、建設業許可上の経営業務の管理責任を担う常勤役員等にはなれない点にも注意が必要です。
そのため、
「まず役員変更の登記をして、その後に建設業許可を確認する」
という順番ではなく、
「役員を変更する前に、変更後の建設業許可要件を確認する」
という考え方が重要になります。
会社の機関設計と建設業許可の要件を、別々の問題として扱わないことが大切です。
3.営業所技術者等の退職にも注意する
建設会社にとって、技術者の退職は大きな問題になることがあります。
特に、営業所技術者等を特定の一人に依存している会社では、その人が突然退職すると、
「後任として要件を満たす人がいない」
という事態になりかねません。
その場合、単に変更届を提出すれば済むとは限りません。
許可業種を維持するために必要な技術者を確保できるのか。
後任者は資格・実務経験等の要件を満たしているのか。
営業所ごとの体制に問題はないのか。
こうしたことを確認する必要があります。
だからこそ、技術者の退職が決まってから対応するのではなく、
資格取得の奨励や若手技術者の育成など、平時から後継となる技術者を育てておくこと
が重要になります。
これは変更届の問題であると同時に、
人材育成と事業承継の問題
でもあります。
4.営業所の移転・新設は「住所変更」と考えない
営業所の所在地を変更するときも注意が必要です。
単に「住所が変わったので変更届を出す」と考えるのではなく、
「その営業所の移転によって、許可行政庁や許可区分に変化が生じないか」
を確認する必要があります。
例えば、他の都道府県へ営業所を移転した場合や、新たな都道府県に営業所を設ける場合には、現在の知事許可をそのまま変更するだけでは済まず、許可換えや大臣許可への切り替えが関係することがあります。
営業所の移転や新設は、
会社の所在地が変わるだけではなく、建設業許可の枠組みそのものに影響する可能性がある変更
として考える必要があります。
したがって、営業所の移転・新設についても、実際に移転・設置する前に確認しておくことが重要です。
5.株主の変更は、許可要件とは別の意味を持つ
株主の変更については、常勤役員等や営業所技術者等のように、直ちに建設業許可の要件そのものに関係するものとは限りません。
しかし、事業承継を考える場合には非常に重要です。
誰が株式を持っているのか。
誰が議決権を持っているのか。
誰が会社の意思決定を支配するのか。
これは建設業許可とは別に、会社法上の重要な問題になります。
そのため、
「許可要件に直接関係しないから重要ではない」
とは言えません。
建設業許可だけを見るのではなく、会社全体を見る。
これも、事業承継では重要な視点です。
6.決算後の変更届にも注意する
決算変更届についても、単なる年次報告として考えないことが大切です。
一年間の工事実績を整理し、工事経歴書を作成し、財務内容を建設業法上の様式に整理します。
ここでは、
-
どのような工事を施工したのか
-
どの業種の工事だったのか
-
元請・下請のどちらだったのか
-
完成工事高はいくらだったのか
などを確認します。
また、請負工事の内容や金額によっては、許可業種や一般・特定の区分などについて確認が必要となることもあります。
さらに、特定建設業者の場合には、決算内容によって財産的基礎に関する要件を満たしているかについても注意が必要です。
つまり、決算変更届を作成するときは、
「昨年と同じように作ればよい」
ではなく、
「この一年間の経営と工事実績に、建設業法上確認すべき点はないか」
という視点が必要です。
7.経審を受ける会社では、さらに重要になる
経審を受けている会社にとって、決算変更届はさらに重要な意味を持ちます。
工事経歴や完成工事高、財務内容などが、その後の経審にも関係してくるためです。
そのため、
決算変更届を適切に作成することは、経審の準備の一部でもある
と考えることができます。
特に、工事経歴の整理や完成工事高の区分などについて誤りがあると、その後の経審にも影響する可能性があります。
経審を受ける会社であれば、
「決算が終わったから決算変更届を出す」
ではなく、
「次の経審まで見据えて決算内容と工事実績を整理する」
という考え方が重要になります。
8.変更届は「会社の状態を点検する機会」
変更届を作成することは、行政への報告だけが目的ではありません。
会社に変化が生じたとき、
「この変化によって、許可に問題は生じないか?」
を確認する機会でもあります。
役員が変わる。
技術者が退職する。
営業所を移転する。
株主が変わる。
決算を迎える。
こうした出来事をきっかけに、建設業許可だけでなく、会社全体を見直すことができます。
特に重要なのは、
「変更してから考える」のではなく、「変更する前に考える」
ことです。
建設業許可は「取得して終わり」ではない
建設業許可を取得することは、建設会社として事業を始めるための一つの出発点です。
その後、会社は人も組織も事業内容も変化していきます。
その変化に合わせて、必要な届出を行い、許可要件を確認し、帳簿や工事関係資料を適切に管理していく。
それが建設業許可を維持していくということでもあります。
ただし、重要なのは「届出を忘れないこと」だけではありません。
会社の変化を把握すること。
その変化が許可にどのような影響を与えるかを考えること。
必要であれば、変更する前に専門家へ確認すること。
この三つが重要です。
変更届は、単なる行政手続きではありません。
建設業許可を守りながら、会社の変化を適切に管理するための仕組みでもあります。
そして、事業承継後の会社にとっては、これまで先代が行ってきた許可管理や書類管理の仕組みを、新しい経営者が引き継ぐこともまた、事業承継の一部なのではないでしょうか。